最近2年間のサポートから➁ ~廃業は最終手段

A社は精密加工を得意とする部品メーカーで、同業者が嫌がる複雑な仕事も積極的に受注してきた結果、小規模ながら技術力を高く評価される企業となっていました。ところが、新型コロナの影響で受注が激減し売上が前年の3割程度に落込んだことから、廃業の相談がありました。「個人資産を投入すれば借金は完済できるし、取引先にも迷惑はかからない。社員にも少しだが退職金を渡せるので、いまのうちに廃業しようと思う」と。社長はまだ60歳台ですが、数ヵ月前に体調を崩していたので、きっと弱気になっていたのでしょう。私は「ここは新規借入により資金繰りを付け、まず、企業を存続することに注力すべし」とアドバイスしました。受注獲得の目途は当面ありませんでしたが、設備投資関連の仕事は一旦は落ち込んでも必ず回復するので、それまでなんとか耐えること、廃業すれば社員が分散し、これまで蓄積してきたせっかくの技術が失われてしまうこと、どうしても存続をあきらめるなら廃業よりもM&Aを検討すること、と伝えました。その後、受注が徐々に回復し、従業員を削減することもなく、黒字化が見えてきました。

社長は「もう少し頑張ってみよう」と前向きになったことから、私は逆に、将来に備えてM&Aの候補先を探し始めることを勧めました。いまはM&Aを仲介してくれる機関が官民を問わず多くありますが、まずは、同業者や取引先など付き合いのある企業から、自社の社風に合う先、社員が活き活きと仕事をしている先、経営者の考えに賛同できる先など、希望する候補先をじっくり選んでおくことです。安心して事業譲渡ができるように備えておくことで、これからの企業経営に集中できる場合があります。